赤い三角帽をかぶり、エプロンをかけた売り子がマスタードの計り売りをしている、「おいしいマスタード、ビネガーはいかがですか」と。

13世紀初頭、10社余りのマスタードメーカーがパリ周辺に存在、1316年より1334年間在位のヨハネ22世も大のマスタード好きだったようである。
ディジョンマスタードが世界のマスタードとなる礎である。16世紀にはメーカーも600社余りとなり、大きな賑わいをみせる。ギルドが出来たのも、この頃である。

当時のマスタードは大変粘度がゆるく、今日のマスタードとは似つかない。未熟な葡萄の果汁とマスタードを組み合わせたものである。
ブルゴーニュー、オルレアン、ボルドーに次々にメーカーが誕生。ご存知の通り、今日でも屈指のワイン産地である。

日本での芥子の歴史も古く、古事記の中にも芥子という記述をみる。漢方的な使われ方であり (今日でも一部外科用の湿布として用いる)、和からしの時代が長くを占め、あく抜きからしは 戦後しばらくからの登場である。
現在の納豆に添付される辛味の強い煉りからしの登場をみるのも、昭和38年頃、納豆の売り子が 経木で作った三角の容器に青のりと水で溶いた色の黒い粒子の粗い練辛子をサービスしてくれていた。ついこの間の話である。今日の粒入マスタードの登場わずか40年経つか経たないでしかない。
いかに辛味を持続させるかという競争の日々と、ヨーロッパ等ではソースとしての多様化目的、数世紀の歴史は大いに異なるものである。